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包装と格闘する彼女の話

 お菓子の包装。あのギザギザの切れ込みを裂くのに失敗すると、包装が伸びて余計に裂けにくくなる。だからまだ手をつけていない綺麗なギザギザでチャレンジしようとするのだが、そういうときに限って、また失敗したりする。それを繰り返すとギザギザがなくなり、結果、開ける難易度が跳ね上がる。
 ──まぁ、ハサミか魔法で開けてやればいいわけだが。

「くっ……」

 クルーウェルは横で飴の包装と格闘するヒトハを眺めていた。飴玉の小さな包みのうち、すでに左上と右上と右下まで失敗して、残りは左下しかない。
 さっさと魔法を使えばいいのに。
 クルーウェルはヒトハの手元で無惨な姿になった飴の包装を見ながら思ったが、かと言ってそれを教える気にはなれなかった。隣で見られていることにも気がつかず、「うぅ」とか「くっ」とか言いながら必死になっている姿は、なかなかに面白いからだ。もはや飴を食べたいのか袋を裂きたいのか分からない。ただ一つ言えるのは、この飴の包装が負けず嫌いで頑固な彼女の心に火をつけてしまった、ということである。

「くぅ……」

 最後の左下を摘んで上下に引っ張る。ヒトハは再びピロンと伸びてしまった包装を前に「ぃん」と変な鳴き声を上げた。完敗である。
 かと思えば、聞こえるか聞こえないかの小さな声で「ムカつく……」と悪態を吐き、今度は四隅ではなく中央を狙おうとしている。
 さすがに無理があるのでは、とクルーウェルは横から手を出そうとしたが、ヒトハはそれに気がつくと、クルーウェルの手を片手で押しやった。

「いえ、大丈夫です」

 などと言いながら失敗するさまは、なかなかどうして面白い。
 さらに反対側に挑むこと計六箇所、当然のように失敗した彼女に新しい飴を与えるべきか、与えないべきか。新しい飴を差し出したとして受け取るか、受け取らないか。

(気になるな……)

 クルーウェルは打つ手なしと萎れるヒトハの前に、同じ飴を差し出した。

「もう一つあるぞ」

 ヒトハは目をまばたき、「いいんですか?」と新しい飴を両手で受け取った。

「次は成功するんじゃないか?」

 クルーウェルはまたしても左上からチャレンジしては失敗する彼女の姿を眺め、「魔法を使えばいいのに」と思いつつ、それを教えない。
 これはしばらく退屈しなさそうである。

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