深雪の魔法士
00 輝石の国
男はかさついた指先で薄いページを擦り、せわしなく捲り続けていた。吹き抜けの高い天井まで敷き詰められた本に囲まれ、魔導式ではない、原始的なランプの灯りを頼りに、掠れた文字を追いかける。
彼の周りには高く本が積まれていた。無造作に積まれたそれは、本にへばりつく男の背に迫る勢いだった。
はやく、はやく、はやく答えにたどり着かなければ。
けれど物言わぬ書物は容易には答えを示さない。
男は焦っていた。吹き付ける雪が激しく窓を叩き、指先を凍らせようとも、この手を止めるわけにはいかなかった。
紙のめくれる音と窓が揺れる音の中、不意にギッと金属が重く擦れる音が割り込んだ。
薄く開いた扉から申し訳程度の明かりが差し込む。それは男の疲れ切った顔をぼんやりと浮かび上がらせた。
「寄るな、あっちに行ってくれ」
彼は首だけ振り返って、扉の先に厳しく言った。そして思い直したかのように、弱々しい声を出す。
「すまない」
高すぎる天井、広すぎる室内に響く懺悔の言葉は、いっそう彼の心を追い立てた。
「すまない……」
滲むのは悲しみと悔しさと惨めさ、そして情けなさだ。
どうしてこうなったのだろう。
何もかも振り払うように、男は再び本に向き直った。揺れるランプの炎が文字を不安定に照らす。
どうして。それに答えられる者はこの屋敷にはもういない。深い雪の中に建つ屋敷で、男はページを捲った。
ページの端には、黒いインクが滲んでいた。
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