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春の妖精

 仕事疲れと春の心地よさからか、猛烈な眠気に誘われ、学園の隅にあるベンチに腰を下ろして目を覆う。今は休憩時間。生徒がいない場所を選んだはずだったが、突然隣に誰かが座った。ゆっくりとした衣擦れの音。白百合のほのかな香り。それから、香ばしいバターの匂い。かさかさと慎重に紙を捲る音を聞きながら、夢と現を行ったり来たりと繰り返す。頭が揺れていることは自分でもよく分かった。深い眠りについてしまっては授業に遅れるかもしれないから。けれど首筋を撫でる春風も、足元で揺れる草花のざわめきも、かさかさと紙を捲る音も、優しい香りも、くすくすと楽しそうに笑う声も、手に触れる細い指先も、夢か現実かは分からない。ただずっとこうしていたいと感じたことだけは、確かなことだったけれど。パチン、と現実に引き戻されたのは昼休みを終える鐘の音を聞いた時だった。学園の隅にある古いベンチ。隣には誰もいない。代わりに片手に小さな包みが握らされていた。そこには三枚のクッキーが包まれていた。

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